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動脈硬化疾患の診察

下肢閉塞性動脈硬化症とは

動脈硬化疾患の診察

私が診察します。

東京医科大学病院 心臓血管外科
西部俊哉 教授

食生活の欧米化、高齢化により心臓病や血管病のような動脈硬化疾患が増えています。
動脈硬化による血管の病気で「下肢閉塞性動脈硬化症」という病気があります。あまり知られていない病気ですが、非常に多い病気です。足が冷たい、しびれる、歩くと痛いなどの症状がある人は以下の記事を読んでください。


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図1. 腹部大動脈から分岐した動脈が
閉塞しているのが分かります。

高齢者が足が痛くて歩けないと言えば整形外科の病気と考えがちですが、足の血管が詰まっているかもしれません。足の付け根や太ももの太い動脈が狭くなったり詰まったりする病気を「下肢閉塞性動脈硬化症」と呼びます(図1)。


その名の通り動脈硬化が原因で、コレステロールのような血液中の脂質が血管の壁にたまることによって起ります。高血圧や高脂血症、糖尿病のような生活習慣病や喫煙が下肢閉塞性動脈硬化の危険因子となります。

日本では人口を基に集計したものはみられないため、下肢閉塞性動脈硬化症の発生頻度に関する正確な数値は発表されていません。しかし、食生活の欧米化と高齢化により、患者数は年々増加していると思われます。ある集計では全国に約660~760万人もの患者がいると推測されており、すなわち60歳以上の10人に1人にのぼります。

下肢閉塞性動脈硬化症の症状

下肢閉塞性動脈硬化症は冷えやしびれから始まり、悪化すると数十〜百m歩くと血液が不足して足が痛くなり歩けなくなる間歇性跛行が起きてきます。次第に黙っていても痛くなり(安静時痛)、放置すると足が腐ってくることもあります(潰瘍・壊疽)(図2)。ところが、間歇性跛行はずれた背骨が神経を圧迫して起こる「脊柱管狭窄症」でもみられる症状であり、いずれも高齢者に多く間違える)!

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図2. 下肢症状は冷感・しびれ感、間歇性跛行、安静時痛、潰瘍・壊疽の順に進行します。

下肢閉塞性動脈硬化症の検査法

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図3. 手と足の血圧を同時に測って
足の詰まり具合を推定する装置です。
動脈が狭くなったり詰まったりすると
足の血圧が下がります。

足と手の血圧を同時に測ることで簡便に血管の詰まり具合を推定できる器具が普及しており、診断がつけやすくなっています(図3)。さらに、動脈の閉塞・狭窄している部位、範囲、石灰化の程度を明らかにするために、超音波検査、CT検査、MRI検査、血管造影などを行います。


下肢閉塞性動脈硬化症の治療法は?

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図4. PTAは血管造影室で行われます。皮膚から動脈を穿刺して、動脈の狭い部分や詰まった部分をカテーテルの先についたバルーン(風船)やステント(金属の筒)を使用して広げる治療法です。局所麻酔で行い、入院期間も数日間で済みます。

間歇性跛行の場合、運動療法(歩くことの繰り返し)や抗血小板薬による薬物療法などで下肢虚血症状が軽快しないときに血行再建術が行われることがあります。重症虚血肢(安静時痛、潰瘍や壊疽)の場合、可能な限り血行再建術が行われます。血行再建術は狭窄あるいは閉塞した動脈の先に血液を送ることを目的としています。組織に流れる血液の量を増やすことで、間歇性跛行や安静時の痛みが軽くなり、潰瘍など治癒することを期待しています。ただ、既に壊死して回復不能な部分は切断する必要があります。
血行再建術としてカテーテル治療(経皮的血管形成術:PTA)やバイパス術、血栓内膜摘除術があります。PTAとはカテーテル(細い管)を使用して病変部位を広げる方法で(図4,5)、バイパス術は自家静脈や人工血管を使用して病変部位を超えて血液の流れ道を作成する方法です(図6)。血栓内膜摘除術は動脈を切開して病変を取り除く治療法です。最近は身体に負担の少ないPTAによって治療可能な場合が多くなっていますが、病変部位や全身状態を考慮して患者様に最適の治療法を選択します。

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図5. 血管内治療に使用される
バルーン(風船)とステント(金属の筒)です。

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図6.バイパス術:詰まった太ももの動脈が
人工血管でバイパスされているのが分かります。


脳梗塞や心筋梗塞、狭心症に要注意

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図7. 北海道新聞の記事から。

下肢閉塞性動脈硬化症は足が腐ることも問題ですが、それより重要なのは足が動脈硬化なら全身が動脈硬化になっている可能性が大きく、脳梗塞や心筋梗塞を起こす危険性が高いことです。日本人の死因は1981年以来第一位をしめているのは「がん」ですが、第二位、第三位には心疾患、脳血管疾患といわゆる「動脈硬化性疾患」が並び、両者を合計すると「がん」に肉薄する死亡率となります。高齢化社会にあって、動脈硬化性疾患の予防は重要なテーマとなっています。動脈硬化がもたらす心疾患の代表は狭心症や心筋梗塞、同じく脳血管疾患の代表は脳梗塞です。脳梗塞や心筋梗塞は前触れがないことも多く、突然やってきます。下肢閉塞性動脈硬化症の症状をシグナルととらえて、食生活を改善したり薬を使用したりすれば、脳梗塞や心筋梗塞の発症を予防することができます。


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